2014年10月25日(土) サンバサンバ初来訪日①
「ここには3人の神様がいるみたいなんだよ」
店内奥の小さなテーブルを囲うように椅子が並んだ二名席に腰掛けた途端、カラス君は言った。
30席ほどある店内は薄暗く、クラシックギターのゆったりとした音楽と、南国風の音楽がランダムに流れた。他の客は2〜3組ほどで話し声は私たち以外には聞こえなかった。
店に入る前に感じていた気配も、慣れることなく頭がグアングアンしたままだった。
それがなんの仕業なのかわからず、座ってからも肩の力が抜けない。
周りをキョロキョロを見回しながら、その気配を発していそうなものを探してみるが、それらしきものは見当たらなかった。レジのオジさんが一番あやしく、只者じゃなさそうだった。
神様か。神社とか寺とかにいるのとは、別物なのかな。
ふと、隣のテーブルに無造作に置かれたご意見ノートが目に入り、なぜかコソコソと立ち上がって手に取り、ぎっしりと書かれたページをパラパラとめくる。
「おかげで楽になりました。」
「女神さまに会えてとてもあたたかい気持ちになりました。」
「今日もパワーをいただいて感謝しています。」
など、ここでの体験談が並ぶ。
女神さま?
すると、先ほど注文したコーヒーとたまごサンドがおじさんの手で運ばれてきた。
お腹の空き具合とネーミングのインスピレーションを交互に照らし合わせ、腹に入れる物を決めかねている私たちにおじさんはたまごサンドをオススメしてくれた。
カラス君は支払いの際に、知人から噂を聞いて来たと伝えると、店長さんは渡した小銭に目を落としたまま、「そうか、わかった。あとで説明しに行くよ。」とだけ告げられて、注文したものを頬張り終えるまで、おじさんを待った。
「おまたせ」
頃合いを見て、隣のテーブルの椅子を持って私たちの間に私たちから1歩下がった位置に店長さんは座った。私たちは半身を後ろに捻るようにして話を聞いた。
「ここはね、インドネシアのコーヒー豆を輸入して、国の支援をしているんだ。」
この店の生業と、豆のルートなどの話から始まり(詳細は忘れたので割愛)、その話の中で、彼がここのオーナーだということを知る。そして、話を結ぶようにこう言った。
「そしてね、その支援をするために、インドネシアから3人の神様が僕についてきたんだ。女神さま、勇者、お金の神様の3人だ。」
「はぁ・・・?」
「順番に案内してあげるよ。おいで。」
最初に案内されたのは女神様の席。
どうやらその神様たちは店内の決まったテーブルに鎮座しているらしい。
他となにも変わらないテーブルと椅子。2名席で私たちが座っていた隣の席だった。
カラス君はその間、もとの席で本を読んで待っている。
「ここに座って、瞑想してごらん。そして呼吸が落ち着いたら月を思い浮かべてごらん。」
両足を前に放って、手のひらを上向きに、両腿の上においた。
オーナーに言われるがままに、見よう見まねの瞑想をしてみた。
そして、月を想像した途端、私の身体に異変が起こった。
背中がどんどんあたたかくなって、全身からどんどん力が抜けていく。
うな垂れた私の首が勝手に左右に揺れる。
そして最後は、なにが悲しいでもないのに
涙が止まらなくなったんだ。