2014年12月25日 人の念に襲われる。
「なにやってるんだ!!はやくしろ!!」「なんでそうなるんだ!!」
深夜22時。今日もひっきりなしに、怒号が飛び交う。
何かにしがみつくかのように続けていたライターの仕事をやめようかと思っていた矢先に求人サイトで見つけた飲食店のクロークの仕事。
煌びやかで著名人も多く来店する異次元なお店を給与の良さで選んだのは、この年の8月だった。客の名前は、本人に聞いてはいけなかった。顔と名前と荷物を瞬時に一致させて管理する。スーツを着て、身だしなみもそれなりに気を使わなくてはならなかった。
席を立てば顔を見て即時に入り口に出すという、一見なんてことないシンプルな業務だったが、一日60組100名余り、コートを含めると冬場で300を超える荷物の往復は私の体力を蝕んでいった。つなぎの仕事とはいえ、慣れれば楽になると希望を捨てずに続けていたが、年末に向かって客数は右肩上がり。
気滞と言われて不調続きの私の身体は、とうに耐えられなくなっていた。
身体が痛い。頭が回らない。周りに対しての気配りをする余裕もなくなっていた。
そんな状況下で、追い打ちをかけるように怒号が飛び交う。
怒号の第一声は、必ず気の短い副社長だった。
発信源が一人ならまだしも、怒りという感情は笑いと同じで次々と伝染していく。
周りのスタッフまでも、イラついた心をそのまま映し出しているような、険しく、強張った顔付きに変わっていく。見破られそうな引き攣る笑顔からは、ブチブチと顔の筋肉細胞が壊れていく音が聞こえてきそうだ。
「いい加減にしてよ!!確認してって言ったでしょ!!」
さっきまで周りをフォローしていたキャッシャーのお姉さんも、とばっちりを受けて怒爆発した。
ここまで蔓延したら、もう手のつけようがない。
責任の押し付け合い。小競り合い。怒鳴りあって、表向きだけ飾りつけて。
これをハリボテ営業と呼ばずなんと呼ぶ。
身体が硬直していく。
来る客がすべてが、同じ顔に見えてくる。
ミスが増えて、収集がつかなくなる・・・
なんだかんだで、時間になれば自動的に客は帰る。
店が静まり返ると共に、張り合いのないビヨビヨに伸びたパンツのゴム状態で帰路につくのは、深夜1時。
いえに着いたら風呂に入って、ガジュマルさん観察して、日記をつけて、さっさと寝よう。
冷え切った部屋に布団を敷いて、エアコン代もケチって体温で布団が温まる頃に眠りにつくのがお決まりだった。
でも、この日はなんだか寝付けない。
身体が痛いのもあるけれど、今日はなぜか頭の中で、誰か男の人の声がする。
なにを言ってるのかわからないが、ずっとなにか怒鳴ってる。
うるさい。うるさい。
消えてよ。
出ってってよ。
寝たり起きたり、耳を傾けても、その声は収まることはなかった。
何時間たっただろうか、もう外が明るくなってきた。
お願い、静かにして。眠れない。
なにを怒ってるの。私が悪いなら謝るから。
お願いだから、寝かせてよ。
結局、この日は朝まで眠れなかった。
同棲していたパートナーが帰ってきてから、彼の前で泣きじゃくった。
そして最後は、声が聞こえなくなったわけではなく、疲れ切って寝てしまった。
そしてその翌日。
身体の痛み、遅れる生理、眼の下のクマ、荒れゆく肌、弱い心、余裕のない心、頭の中の声・・・
こうなる原因は、気が足りないからだと、自分の中で核心に変わっていた。
病院に通い詰めても、きっとよくならない。もう西洋医学じゃどうにもならない。
私は気が足りなくて、影響を受けやすくなった自分の心と身体の舵が完全に取れなくなってしまった。
きっとこの仕事をやめても、虚弱した身体はすぐには良くならない。
転職しても程度はよくとも、きっとまた同じ症状に見舞われる。
もうこんな状態のまま生きるのは嫌だ。
一秒でも早く治して、自分の人生の舵を取り戻す。
元気になって、また自分を生きるんだ。
もう欲張り言わない。
私はただ、元気になりたい。
こうして、
私は、気功の短期集中講座(30万円)を受ける決意をした。